2011年6月9日木曜日

東日本復興ビジョン案に向けて(4)

4.新旧社会の対比でみる各国の動き、日本の動き 

東日本復興ビジョン案に向けて(1)はここ。 
東日本復興ビジョン案に向けて(2)はここ
東日本復興ビジョン案に向けて(3)はここ

 世界は、経済第一という点で、モノトーン化してきたようにみえる。各国ともGDPが増大していれば安心し、GDPが停滞もしくは減退していれば、非常に不安がる。経済成長のためならば、少々の不具合や齟齬は許されてしまう。なりふりをかまわない経済成長第一主義のように見える。
 一方で、世界は、地球温暖化や自然破壊、さらには化学物質汚染や人口爆発などを破滅的な危機と捕らえ、持続可能な社会へ向けて、変貌しようとしている。
 このような二つの流れの中で、各国はどのように動こうとしているのか、かなりの温度差が見られる。
 ヨーロッパは、温暖化に、かなりの危機感を持っている。現実の猛暑、寒波、大洪水など温暖化被害を肌で強く感じているからであろう。「温暖化対策と経済成長の両立」を標榜している。再生可能エネルギーの全量買い取り制度や排出権取引制度などの温暖化対策も効を奏しており、太陽電池のQセルズや風力発電のヴェスタスなど急成長してきた。再生可能エネルギーの雇用を支える職業訓練も充実している。エコシティ、エコタウンの実証など盛んに行われている。ドイツなどは3R(Recycle、Reuse、Reduce)も進んでいるし、汚染化学物質規制もEU主導である。EUとして、複数の財政困難な国家を抱え、植民地時代のつけである移民問題などをかかえたりしているが、地球温暖化に対する危機感は相当なものがあり、国際社会を引っ張っていこうとする強い意志が感じられる。原発は、温暖化対策として位置づけが大きくなっていたが、福島の原発事故で、ドイツとスイスは原発廃止を決めた。

 米国は国策で温暖化対策としてグリーンニューディールやモーダルシフトを進めている。アルゴア元副大統領やアースポリシー研究所レスターブラウン所長などは、温暖化を非常に危機だとして積極的な啓蒙活動を行っている。現実に竜巻やハリケーンの巨大化、西海岸の山火事の頻発など温暖化被害は増大している。ビジネス界は、温暖化対策重視と軽視の真二つに割れている。対策推進派は、再生可能エネルギーを大きなビジネスチャンスとしてとらえ、積極的に事業展開を行っており、太陽光発電も風力発電も急速に普及している。スマートグリッドもIT技術が応用できるとのことで、グーグルなどIT企業が積極的に取り組んでいる。電気自動車の開発や普及にも積極的である。その一方で、経済成長第一主義者や石炭・石油ビジネス業界も黙ってはおらず相当な相克がある。原発は今後も継続するとのことであるが、米国では再生可能エネルギーの技術開発・普及が今後も加速度的に進むと予想される。

 中国は、国営資本主義でなりふりかまわない経済成長を邁進中である。環境汚染も相当にひどいと聞く。人権軽視、検閲強化など自由主義圏の世界からは考えられない振る舞いであり、覇権拡大意識も強烈である。南沙諸島、西沙諸島さらには尖閣列島の領土主張、インドを包囲する真珠の首飾り作戦などなど。世界中の資源あさりは衆知の事実である。将来の食糧不足に備えたアフリカ諸国での農地確保、片道切符での農夫の送付など、やりたい放題の感がする。  中国では北東地方の旱魃がひどく、新彊地区の氷河も目に見えて後退しているなど、温暖化被害も深刻化している。砂漠も拡大しており、数年で北京に押し寄せるのではないかと心配されている。このため、中国政府は植林をはじめとして自然回復にも積極的で、「緑の長城作戦」「退耕還林」「退耕還草」「季節的休牧」などを行っている。再生可能エネルギーにも積極的で太陽電池や風力発電が急速に普及している。太陽熱利用の温水もブームになっている。電気自動車の普及に向け、給電所が急ピッチで広がっている。エコシティの実証実験も積極的で日本を含む各国が技術提供や共同開発を行っている。都市鉱山も着々と進めている。次世代社会へ向けて中国も大きく動いている。中国の原発は、あれだけ広い土地がありながら地震多発地帯に建設されている。これは改善されると予想される。

 オーストラリアは、温暖化対策には必ずしも積極的ではなかったが、旱魃や山火事の頻発など温暖化被害が大きくなり、状況が一変した。温暖化対策が選挙戦の争点となり、温暖化対策推進派が勝利した。しかし、炭素税の導入に対しては、現段階で反対意見のほうが多いとか。ここでも温暖化対策と経済優先の押し合いがある。

 日本は、世界的にみて、温暖化に対して危機意識が非常に希薄である。世界的な意識調査ではほぼ80位と非常に低位である。温暖化対策の国際会議では、毎回、発言が後ろ向きであるとして、”化石賞”を貰っている。危機意識が低い第一理由は、なんといっても温暖化被害が他国と比べて軽微であるからであろう。被害は少ないといっても、九州産のコメは温暖化の影響で白濁化した。商品にならないということで品種改良がされ、既に改良品が出回っている。ミカンもサクランボも影響を受けている。農家だけではない、漁師が獲る魚はどんどん南方系になっている。専業の第一産業従事者が少ないので、声があまり聞こえてこないのだろう。
 ゲリラ豪雨被害で死者が増えても温暖化の危機意識を持たない。温暖化に対して、危機意識を持っていないから、京都議定書の遵守や排出権取引は、単にビジネスの障害にしか見えない。
 危機意識が薄い他の理由として、都合の悪いことは、見たくない、聞きたくない、考えたくないという国民性にあるとも言われている。

 日本は、高度成長の夢いまだ覚めやらずで、高度成長が続く中国、韓国を恨めしそうに眺めている。そして、夢よ、もう一度ということで、工業製品で稼ぎ、その他は輸入という旧態依然としたビジネスモデルに固執し、経済成長ばかり気にしている。高度成長ボケは、世界の次世代へ向けた取組が目には入っても、耳で聞いていても、思考に入らず、ましてや方針になっていない。過去の幻影を追っているだけである。
 資源は輸入が思うようにならないということで、少しはあわてているが、食料も木材も輸入できなくなるかもしれないということまで、考えられていない。

 日本の国際会議での温暖化ガス排出削減宣言は、国内外で、真剣さのない政治家の単なるパフォーマンスとしてしかとらえられていない。本来の持続可能社会つまり安全社会という一面を忘れている。CO2排出削減の世界へのつじつま合わせと経済成長のみを考慮して、スマートグリッドなどの新技術を使わない従来技術でできるという安易な発想で危険な原発に極端に頼ろうとしていた。今回の福島の事故で、原発の問題が浮かび上がってきた。使用済みの核燃料がたまりに溜まって、行き場がないことや日本が地震の巣であり、今後も事故の可能性が大きいこと、安全技術管理が不十分であることがわかってきた。ウラン資源も限りがある。エネルギーだって、いつも簡単に輸入できるとは限らない。石油をめぐって国際社会はいつもきな臭い。

 日本は従来型の経済第一主義一辺倒で、温暖化や食糧難など世界的な危機へ向けた取組が全く遅れている。日本での再生可能エネルギー普及は、たったの1%である。全くの出遅れである。大きな内需を失っている。そのせいで温暖化対策をビジネスチャンスとしてとらえた企業はしかたがないから、他の国の温暖化対策推進に便乗して頑張っている。輸出の増大ということで政府がはじめて後押しをする。非常に奇妙な構図と言わざるを得ない。

 危機は温暖化だけではない。食料も、木材も、エネルギーも、自然も危機である。対策は各国とも自然を涵養して、食料も、木材も、エネルギーもできるだけ自給して、持続可能にしていくことである。  日本は世界の危機を知り、東日本大震災の復興で次世代社会のありようを世界に先駆けて実現すべきではなかろうか。  漁師が山に木を植える運動の起点は、仙台の漁師である。岩手県葛巻町は再生可能エネルギーに注力し、電力の自給率は180%、エネルギー全体でも78%とのことである。最も難しいとされたリンゴの無農薬栽培に成功した木村秋則さんは青森県である。東北には、次世代の先鞭がある。もともと日本人は自然涵養で優れたDNAを持ち、3R精神に富んでいた。昔の日本人に立ち返り、東北大震災のあとに、一日も早く原発のない持続可能な次世代社会を実現して欲しいと思う。

次回 
5.次世代社会の先取り=東日本復興ビジョン

2 件のコメント:

  1. 風力発電の問題点はありますか?

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  2. Katsumasa Fujii2011年6月14日 6:47

    風力発電は、音がうるさいのが問題です。
    大型風力発電の場合、周囲2km以内だと低周波障害が起きる可能性があると言われています。このため、洋上発電が有力視されています。低音化に向けた開発も行われています。

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