2011年7月26日火曜日

日本人論1-讃えられる”GAMAN”と悪用される我慢

 昨年11月、NHKのクローズアップ現代で、アメリカのスミソニアン博物館で “The Art of Gaman”と名付けられた工芸品の展示が行なわれているという紹介があった。

 戦争を知らない日系人が自宅の納屋や倉庫に見事な工芸細工品があるのを見つけた。自分のうちだけではなかった。多くの日系人の納屋や倉庫にいくつもの工芸細工品が埋もれていた。

 第2次世界大戦の発端となった日本軍の真珠湾攻撃は、アメリカ社会に激しい反日感情を引き起こした。日系人は、内陸部の砂漠に強制的に連行され、柵で囲まれた収容所に収監された。

 収容所では日系人は自給自足を強いられた。全てが不自由で逃げ出せば射殺された。いつ終わるともわからない日々をじっと耐え、多くの日系人が、いつとはなしに、つらさを、工芸細工品を作ることに昇華させていた。限られた道具、限られた材料で、こみいった見事な美術作品が作られた。

 戦後生まれの日系人が納屋や倉庫で見つけたものは、自分たちの親達が作っていたものだった。それは集められ、いつしか日系人を排斥した人々の知ることになった。これらは、世界中の人が訪れるスミソニアン博物館で、The Art of GAMANというタイトルで展示された。粗末な材料と道具から作られたとは信じられない作品は、訪れる人々に日本人の辛抱強さ、忍耐、そして精神性の高さを充分に印象付けるものであった。

 今回の東日本大震災で、日本人の我慢強さや忍耐、秩序正しさなどが世界的に賞賛された。”GAMAN”はいまや国際語になりつつある。

 日本人の我慢強さは、どこからきたのだろうか。日本の気候に関係しているのではないかと思う。赤道直下の暑さと北の寒さが狭い日本に凝縮されている。インド人もびっくりする暑さ、北欧に劣らない雪の厚さ、これ程の暑さと寒さがわずか長さ2000kmの狭い国土に詰まっている。このようなところは世界中どこにもない。

 DNA解析によって推察される日本人の祖先は、シベリアの更に西の数千キロ先と言われている。風俗的にはブータンや中国の雲南省と非常によく似ている。日本人は北からも南からも数千キロにわたって長い道のりを歩いて大陸の東の端にたどりついた。追われるようにたどりついたのか、新天地を求めて、積極的にたどりついたのか、知るよしもない。いずれにしても日本人の忍耐強さや辛抱強さは長い道のりによって育てられ、厳しい天候によって鍛えられるなど、非常に遠い過去から刻みこまれたものだろう。

 日本人の〝GAMAN″は、メリットだけだろうか。日本人の我慢強さは、日本独特の社会を構成し、それは必ずしも優れているとは言えない。

 日本人の我慢強さ、忍耐強さを一番よくして知っているのが、日本人である。日本人は、無意識に、日本人の我慢強くて、忍耐強い性質を知っており、そしてそれを無意識に利用している。

 それが顕著に表れるのが、会社の上司と部下である。上司は、部下に難しい仕事をなんとかしろといって押し付ける。係長、課長、部長、役員、社長と偉くなるにつれて、なんとかしろと押し付ける傾向が強くなるケースもある。その逆に上の指示は下にいくほど増幅されて厳しくなるという説もある。〝叱ってなんぼ、叱られてなんぼ″という言葉がある。〝無理難題をなんとかするのがサラリーマン″という言葉も聞いたことがある。

 私はいつもなんとかするほうでなんとかしろという立場ではありませんという人も状況が変われば豹変する。
 外注をする場合、納入業者に価格と納期で無理難題と思われる要求をする。複数部門で仕事をする場合、後ろ工程に対して、平気で納期を遅らせる。ソフト開発者に対して、既にソフト開発がスタートしているのに、あとからあとから仕様変更をする。いずれも受ける側はたまったものではない。あまり意識することなく受ける側の忍耐と頑張りを期待している。自分が受けている無理難題を、違ったかたちで、違った人たちに押し付けている。

 無理難題を処理するほうは、試行錯誤で忍耐と頑張りで、なんとかクリアするが、疲労困憊で効率は悪い。

 現場レベルでは、こうした環境は現場力の強化につながっているかもしれない。問題は上下関係であろう。年貢を厳しくとりたてるお代官と年貢を取り立てられる百姓の関係である。お代官と百姓の時代から、日本人は、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んできた。というより、ずっと昔から持っている生来の忍耐強さを、お代官様も利用したのだろう。

 太平洋戦争では「日本陸軍は教科書通りのことしかやらない。どうしてあんなばかな司令官や参謀たちのいる軍隊が大崩壊しなかったのか。兵隊や下士官が信じがたいほど強かったからだろう」とイギリス人参謀が言った(司馬遼太郎『昭和という国家』)とのこと。日本軍の参謀たちも兵隊や下士官の忍耐強さや頑張りを利用することばかりに頭を使ったのだろう。

 今回の大震災で確認できたことは、「日本のボトム力のすごさ」と「政府や東電本社などトップ層のだらしなさ」であろう。

 電気や携帯機器メーカーは、優れた技術を持ちながらガラパゴス化していく、折角の技術がいとも簡単に流出していく。銀行や証券も優秀な人材が集まっているはずなのに、M&Aや大きな国際案件で外資系に全く歯がたたない。

 一般に下が頑張るから上が育たないとも言われている。世界的にも日本人の現場力のすごさと企業や政府などのマネジメントのまずさが通説になりつつある。

 何がまずくてどうすれば、よいのだろうか。日本が成長していくために、多くの人が考えなければならないテーマだと思う。どうなっていて、どうすべきか私も次回のブログで考えてみたい。

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