2011年6月30日木曜日

まともなエネルギー政策を

 危機管理および安全保障は国の最大の仕事である。将来想定される危機に対して、危機が起きないように、輸送面、技術面、経済面など様々な角度から検討し、長期的にも短期的にも適切な対策を施し、安全を保障する。このような国家の重要事項は、国民は方針や概略を知っていて、政党が変わっても大きく変わらないというのが本来の姿ではなかろうか。行わなければいけない危機管理、安全保障はいくつかあるが、エネルギーもそのなかの一つである。
 今回の原発事故で、国は電気エネルギーを極端に原発に頼ろうとしていたことを、国民が広く知ることになった。民主党が採った方策は、自民党も吃驚するほどの原発依存であった。
 本来なら、今回の福島原発事故を受けて、長期と短期にわたってエネルギー政策が再検討され、変更が公表されるべきである。が、政府の方針がはっきりしない。はっきりしないというより、再検討もされず、変更する気もない。
 日本の電力エネルギーは、国の保護のもと、一つの地域に一つの電力会社のみが存在し、電力の安定供給を行ってきた。国と電力会社が一体となり、一面では高度成長を支えてきた。しかしながら、政治家と官僚、電力会社の三つ巴の電力利権構造は強固になり、その強固ぶりは「鉄の三角形」といわれている。各国が地球温暖化対策やエネルギー自給率の向上に再生可能エネルギー比率を高めてくるなか、日本は電力利権構造に変更を迫る再生可能エネルギーの普及に消極的で、ことあるごとにその芽を摘み取ってきた。太陽電池が普及しそうになると補助を打ち切り、風力発電が伸びかければ、規制を強化した。
 電力に関する既得権益が如何に強固であるか、もと官僚の岸さんというかたが、TVタックルで話された。電力会社の傘下には、たくさんの企業がぶらさがっている。半国営の電力会社は値切ることをしらない。製品を納める企業からみれば、これ程有難い納入先はない。従って、電力会社は多くの「票」を持つ。多くの票と多額のお金が政治家にわたる。政治家と官僚は、電力会社を守るための法律を作り、電力会社に補助金を渡す。官僚は、多くの天下りポストを得る。
 地球温暖化対策では、再生可能エネルギーの強化、発電送電分離、スマートグリッド技術などが必要であるが、既得権益者は既得権益の保護を第一優先とし、変化を忌み嫌った。岸さんによれば、スマートグリッドという言葉を出すだけで東京電力は露骨に嫌な顔をして、そんなことをすれば、大臣の首が飛ぶよと脅していたそうである。結局、自分たちの権益保護と地球温暖化対策を兼ねる原発への大幅傾斜を決めた。エネルギー安全保障の観点から一つのエネルギー源に集中させるような国はどこにもない。異論を唱える人も反対する人も少なかった。危機意識の欠如は、日本全体を覆う平和ボケ、高度成長ボケのなせるわざであろう。
 今回の福島原発事故は、日本における電力エネルギー政策の横面を思い切り引張たいた。日本だけではない。世界的にブームになりかけていた原発開発に水を差し、ドイツ、スイス、イタリアは、「脱原発」を明確にした。温暖化対策に積極的でないと日本では言われている中国や米国ですら、再生可能エネルギーの急速な普及を図っている。更なる温暖化対策と経済発展の両立に、原発を進めようとしている。
 原発推進を明確にしているアメリカ、フランス、イギリス、中国、これらの国では危機意識と危機管理知識・能力を持ち合わせている。万全でないとしても日本よりはるかに優れている。中国は強烈な危機意識とえげつないと思えるほどの危機対策意欲を持つ。
 日本に住むアメリカ人が、どこかの番組で、アメリカの子供のほうが、日本の総理より、危機意識と危機管理知識を持っていると言っていたが、笑えない現実だと思う。
 このままいけば、電力エネルギー政策のすべてを握る政治家、官僚、電力会社が既得権益にしがみつき、エネルギー政策や方針を何も変えず、ほとぼりがさめるのを待って、現状の原発政策を強引に推し進めるのではなかろうか。
  
 長期的なエネルギー政策はどうあるべきであろうか。
2050年CO2排出削減80%は、国際的な合意事項である。いつどこで、大きな地震や津波が襲ってくるかもしれない国土に、危機対策に無能な政治家が君臨する日本では、原発はありえない。全面的に再生可能エネルギーへ移行すべきある。再生可能エネルギーへ移行すると、国際紛争の種である資源問題も、地球温暖化や大気汚染などの環境問題もクリアする。放射線被害や原発へのテロ攻撃を心配する必要もない。
 長期的なエネルギー政策として、ある時期に原発を全廃し、再生可能エネルギーを主力にすることを明確にすべきである。
 
 短期政策を考える前に、現状をみてみる。現行法律では、原発は13ヶ月以内の定期点検が必要であり、再開には知事の合意が必要である。現実的には、地元住民の合意も必要であろう。地元の合意が得られないとすれば原発は来年の5月に全廃になる。そしていま、節電ムード一色である。これでは、ますます日本経済全体が活性化を失い、沈んでしまう。
 経済産業省大臣が、原発の再稼働へ向けて、佐賀県にお願いにいっている。これでは、エネルギー政策は全く変わらない。既得権益者を保護する今迄通りの原発と化石燃料を主体としたエネルギーになる。現に、国際社会へ日本のCO2排出が今後増えると公表しようとしている。これではあまりに無策である。
 
 短期政策は、長期政策を睨みながら、現実的な対応になる。CO2排出削減に向けて、化石燃料技術も頑張っている。石炭火力発電における二酸化炭素の貯留・保存技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)や天然ガスを用いてガスタービンで発電し、その廃熱で蒸気タービンを回して発電するガスタービン複合発電(GTCC: Gas Turbine Combined Cycle )、石炭をガス化し、ガスタービン複合発電を行う石炭ガス化複合発電(ICGCC: Integrated Coal Gasification Combined Cycle)などの技術がある。
 今回の電力会社の節電要請に対し、CO2排出が石炭より少ないとされるガスタービンによる自家発電を検討している民間企業があり、太陽光発電や風力発電を導入しようとしている一般家庭がある。
 企業におけるガスタービンによる分散電源、企業と一般家庭における再生可能エネルギーの普及を促進する法整備が必要である。
 現在、実質的に発電と送電を電力会社が一手に握っている。発電は一般業者が参入できるようになっているが、一般業者の送電使用料金が高いため、発電を行う一般業者の業績が伸びず、依然として電力会社の独占状況にある。このことから、発電・送電分離がいわれている。分離すると一般業者も安い送電料で送電ができることから、まずこの発電・送電分離を行う必要がある。送電も自由化すべきであろう。送電は送電と配電とに分けて、いずれ両方とも自由化する。まずは配電の自由化が望ましいと考える。
 一般家庭の太陽電池には、余剰電力買い取り制度がある。これをヨーロッパ並みに企業の発電も含めて、すべての再生可能エネルギーに拡大し、全量買い取りにすべきといわれている。孫正義さんなどは、余剰電力の買い取り期間が現在の10年では短い。全量買い取り制度にして、期間を20年にして買い取り価格も、以前の余剰買い取り価格の48円/kWhに戻すべきと主張している。現在は42円/kWhである。
 現状の法律は、一見、再生可能エネルギーを推進しているように見せて、実に様々な制限をつけて、再生可能エネルギーの推進を骨抜きしている。いつもの官僚の自己権益を守るための涙ぐましい努力の賜物である。
 
 政府は、時期を明確にして、原発全廃を宣言すべきと考える。そうしないと何も変わらない。将来は全廃するとしても、当面、原発は必要とするというような表現では、変化が生まれない。何も変わらない。
 原発全廃時期は、ドイツのように10年先では無理があるとしても、40年先では間延びする。「2030年までに原発全廃と再生可能エネルギー大幅移行」を宣言し、関連法案を整備するというのはどうだろう。再生可能エネルギーの普及を手ぐすねをひいて、待っている企業はたくさんある。
 小さなエネルギーをこつこつ積み上げていく再生可能エネルギーも、不安定なエネルギーをきめ細かく平準化させて使うスマートグリッドも日本人にあっている。大きな雇用創出につながるし、地方活性化の切り札でもある。
 再生可能エネルギーの研究で日本は先端を走ってきた。政府は普及の努力はしなかったが、研究開発段階では予算をつけてきた。
 再生可能エネルギーの種類は実に豊富である。よく知られている太陽光発電や風力発電、地熱発電以外にも太陽熱発電、潮力発電、波力発電、マイクロ水力発電、温度差発電、塩の濃度差発電など多種多様である。バイオ発電もいろいろある。ごみ発電に、糞尿発電、間伐材からつくるチップ発電などがある。日本での再生可能エネルギーの普及は電力利権構造が強いため、世界にかなり出遅れている。全量買い取り制度などの法改正や規制緩和などで再生可能エネルギーの普及にトリガーがかかれば、かなりの速度で日本は変わっていくと予想される。
 つなぎのエネルギーとしては、比較的CO2の排出量の少ない前述のガスタービン複合発電や石炭ガス化複合発電などが有望である。

 日本近海にはメタンハイドレードという化石燃料が多量に埋まっている。つなぎのエネルギー源として、この活用も考えるべきではなかろうか。このガスでガスタービン複合発電であれば、CO2排出もある程度抑制できるのではなかろうか。
 無駄の削減による無理のない節電やLEDに代表される省エネ技術も有効である。
 様々な手を打って、それでも電力がどうしても足りないということであれば、期限を限定して原発も止む無しとなるであろう。そのときは、将来の地震強度予想や原発の老朽度などから判断して、安全性の高い原発だけを再稼働することになるだろう。
 
 今回の福島原発事故は、誠に不幸な出来事であるが、これを契機に電力会社による独占支配と利権構造が崩壊し、再生可能エネルギーが普及することを祈って止まない。
 福島原発事故は世界を震撼させた事件であるにもかかわらず、政治家、官僚、電力会社からなる電力利権の「鉄の三角形」は、相当に強固であり、変わる気配がない。
 しかし、変わらなければ、再生可能エネルギービジネスは世界中で急拡大しており、この最大のビジネスチャンスを失うことになる。
 
 戦後、マッカーサーが日本人の精神年齢は12歳以下だと馬鹿にしたそうである。今、一般のアメリカ人から日本の総理の危機意識、危機管理知識はアメリカの子供以下だと馬鹿にされ、それに納得する我々がいる。利権亡者で、政争にのみ明け暮れする政治家に危機管理や将来ヴィジョン、まともなエネルギー政策を期待するのは、どだい無理があるのかもしれない。
 地球温暖化対策では、政府のかなり先をいく、多くの自治体がある。多くの企業が新しい時代へ向けて、様々な準備をしている。そして多くの国民が自分の意見が言えるネット時代がきている。時間がかかるかもしれないが、国民一人一人が自治体や企業、NPOやボランティア団体などを通して、ボトムアップ的に政治のレベルアップを図っていく必要があるのではなかろうか。

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