2023年12月16日土曜日

 気象あれこれ コリオリの力(5)

金星のスーパーローテーションの謎にせまる
       ーーもう一つのコリオリの力に市民権をーー

過去の記事   
コリオリの力(4)
コリオリの力(3)
コリオリの力(2)
コリオリの力(1)

 回転している地球そして惑星には、動いている物質(気体も液体も含む)の速度と質量に比例した力が働きます。これがコリオリの力です。式で表せば F=2Vω となります。Fが力でmが質量、が速度です。コリオリの力は地表に平行に動く物質に力(F=2V*ω)が働くと同時に地表に垂直に動く物質にも力(F=2Vω)が働きます。

 地表に平行に動く物質に働くコリオリの力は非常によく知られています。台風や竜巻、つむじ風、風呂の栓を抜いた時の左巻きの水の流れなどです。これらの渦は北半球では、左巻きですが、南半球では右巻きになります。このコリオリの力は赤道直下ではゼロで北極点、南極点で最大になります。

 それでは地表に垂直に動く物質に働くコリオリの力はどうでしょうか。北半球も南半球も同じ方向に力が働き、北極点、南極点ではゼロで、赤道直下で最大になります。このコリオリの力で説明されている現象はほぼ皆無と言っていいでしょう。前回、赤道反流は垂直に動く大気の流れにコリオリの力が働き、起きている可能性を示しました。しかし、定説になっているわけではありません。

今回は、これはと思うものをもう一つ示します。それは金星の大気の流れです。

地球、火星、金星などの大気の流れを下図に示します。この図はJAXAの
金星の気象学-惑星の気象学とスーパーローテーション ←クリック
にある図です。


 上図の地球や火星の大気における極循環、フェレル循環、ハドレー循環、偏西風、編東風もすべて、地表に平行に動く大気に対するコリオリの力で説明できます。それに対し、金星やタイタンで起きているスーパーローテーションはよくわかっていないといわれています。

 コリオリの力は、地表に対して平行に動く気体に対して、働くのみならず、地表に対して、垂直に動く気体に対しても働きます。私は、金星やタイタンで起きているスーパーローテーションは地表に対して、垂直に動く気体に対しても働くコリオリの力によるものと考えます。

以下は金星に関するJAXAの記事の抜粋です。
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『金星は大きさや重さは地球と似ていますが、惑星表面の環境は地球と大きく違っています(図1)。 たとえば金星の大気は二酸化炭素(96.5%)を主成分として、あとは微量の窒素(3.5%)などです。 大気の量が大変多いため、地表面での気圧は約90気圧もあります。この圧力は深さ900mの海の底と同じです。 約45 kmから70kmの高さには濃硫酸からなる雲があります。 この雲は地球の雲と違って惑星全体を完全におおっていて、そのために外部から大気や地表面を観察することは困難です。

金星の大気大循環はどうなっているのでしょうか。 金星の自転周期は243地球日であり、赤道での自転速度は1.6 m/秒しかありません。大気と地面は絶えず力を及ぼしあっているので、このように自転の遅い惑星上で吹く風は自転と同程度に遅いと予想されます。 例えば地球の偏西風は30 m/秒程度ですが、これは赤道での自転速度460 m/秒の1割にも達していません。


しかし金星の滝循環はこのような予想とは全く違っていました。 1974年に米国の探査機マリナー10号が連続撮影した画像によれば、 雲はどこでも自転と同じ方向に 100m/秒もの速さで流れ、約4地球日で1周していたのです(図2)。 

これは大気が地面の60倍もの速さで回転していることを意味します。 金星にこのような風が吹いていることは、実はフランスのアマチュア天文家が1957年に先に発見していたそうです。 しかし同じころ地上からのレーダー観測によって金星の自転速度が大変遅いことがわかったため、 4日で1周する風などありえないと決め付けられて、長らく無視されていたということです。

この不思議な風は「スーパーローテーション(超回転)」とか「4日循環」とか呼ばれています。 その後着陸機が大気中を降下しながら観測したところ、風は高度65 kmくらいまで高さと共に強くなっています(図3)。

大気には粘性(ねばっこさ)があり、地面との間で摩擦が働くので、特別なしくみが働かないかぎりこのような風の分布は徐々に均されてしまい、 最終的には自転速度と大差ない風速に落ち着くはずです。 地球を基準に考えると大変不思議な風です。
ーーーーー以上、JAXAの記事の抜粋でした。

  更にJAXAの記事では、スーパーローテーションの原因として3説が書かれています。そして3説とも、原因を硫酸の雲とその下にあるとしています。どれも決め手がなく、まだよくわかっていないとのことです。

 私は、このスーパーローテーションは硫酸の雲の上の大気にあると考えます。硫酸の雲の上の大気が地表に垂直に動き、垂直に動く大気に働くコリオリの力によるものだと推測できます。コリオリの力によるという説は、3説に入っていません。

私の推測を以下に示します。

  • 硫酸の雲とその下の高圧なCO2層は、地球の海に相当するのではないかと考えます。
    というのは上記のJAXAの記事に
    「金星の地表面での気圧は約90気圧もあります。この圧力は深さ900mの海の底と同じです。」と書いてあるからです。
  • 地球の場合、海流は大気の流れに従うと説明されています。そうであれば金星のスーパーローテーションは硫酸の雲の上の大気が引き起こしていると考えてもおかしくありません。金星は多量なCO2のため非常に高温になっているので、大気の上下対流は激しく、下降する大気にコリオリの力が働いて硫酸の雲を自転する方向に加速すると考えられます。
  • 地球型の回るジャングルジムがあります。回転し始めると子供わずかな力でも回転を手助けすればかなり高速にジャングルジムを回すことができます。これと同じように下降流に働くコリオリの力が継続的に硫酸の雲にかかり続ければ高速回転も可能になり得ます。

  • 下降する大気にコリオリの力が働いて、自転は243日に対して硫酸の雲は4日循環というのもありうると考えられます。


 スーパーローテーションの絵を見ていると赤道直下が最も高速で、極地は低速にみえます。地表に垂直の動く大気に対しは、コリオリの力は赤道直下で最大になり、極地でゼロになることと矛盾はありません。

 JAXAの記事の中に地球の大気シミュレーションで条件をかえるとスーパーローテーションのような流れが再現されるとも書いてあります。これはシミュレーションはコリオリの力の基本方程式を忠実に解いており、地表に水平に動く大気にも垂直に動く大気にもコリオリの力が自然に反映されているからだと思われます。

 ただ、人々の意識のなかに地表に垂直に動く大気に働くコリオリの力がないだけだと思います。ということで、もう一つのコリオリの力に市民権を。

(追記1)
 地表に水平に動く大気に働くコリオリンの力にばかりに注目がいくのは、それが台風や竜巻など甚大な災害を起こしているからやむを得ないところもある。しかし、台風も竜巻もその中心付近は地表に垂直にも動いている。いずれこれらに対するコリオリの力も注目されるようになると考えられる。

(追記2)
 Wikipediaには、JAXAのあかつきはスーパーローテーションの原因を突き止めたと書いてあるが、JAXA自体は説の一つであるとしている。そして徹底的なデータ不足であり、いろんな人がいろんな説を唱えているとのことである。
 戦国の時代も維新の時も資料が十分にあるとは言えない。作家や脚本家は想像力を働かせていろんな物語を作る。金星のスーパーローテーションもこれからもいろんな案がでてくると思われる。歴史と違うのはデータ(資料)が積み重なっていくのは今後であり、いつかスーパーローテーションの原因が明確になる時がくると期待する。


(追記3)
JAXAのHPに載っている金星のスーパーローテーションのメカニズム案を下記に示します。いずれも硫酸の雲の下に原因を求めています。